ハムレットプロジェクト『継承者』座談会3

 

 

 

演出ってこう整えるから、そこからはみ出してくれたら構成演劇って面白くなるのね。どんどん。なんで、俳優が変なほうが本当に面白いんだけど

 

 

野々下 山澤君は逆にねえ…ここまでないからこそ、感じる逆に。

 

山澤 ああ…。

 

野々下 もうだって駄目でしょ山澤君芝居やったほうがいいでしょ、みたいな。

 

山澤 ははは。

 

野々下 そんなに薄まりたいんだったらもう芝居やるしかないでしょう、みたいな。ふふ。消えてなくなりたいくらいの欲望を感じるときがあるから僕は、山澤君から。

 

山澤 ああ…それはありますね。

 

野々下 でもまあ…生きるしかないからね。その矛盾がいい具合に舞台で出るよね。

 

山澤 ふふ。

 

野々下 でも山澤君はもう存在しちゃってるし、なんならその薄まりたいって欲望が異常だから目立っちゃってるよ。みたいなさ。ふふ。

 

山澤 そう…なんか最近やっと自分が特殊なんだなってことに気づいたんですけど。

 

野々下 うん、そこまで薄まりたいっていうのはね、やっぱり特殊だよね。

 

山澤 ああ…。

 

野々下 すごい目を引く。…あと、松浦は言ったことはわかって、で、その後になんかこう…なんて言ったらいいんだろう…その辺が分からないんだけど、折衷案が必ずこっちを少し立ててくれるの。松浦って必ず。

 

小森 ああ。

 

野々下 野々下さんがこう言った部分は絶対やってますよって言いながら。で、松浦がやっぱり…1ポイントでもいいんで上回ったほうがいいんだよね。

 

松浦 …うん…。

 

野々下 俳優はね。じゃないと、なんかこう…それは芝居によるけど。構成演劇はねって言ったほうがいいね。構成演劇では松浦が出たほうがよくて、で…そのことによって…演出ってこう整えるから、そこからはみ出してくれたら構成演劇って面白くなるのね。どんどん。なんで、俳優が変なほうが本当に面白いんだけど。

 

松浦 うん…。

 

野々下 その…すごく…勉強になったなみたいなのを狙ってるわけじゃないじゃん構成演劇って。なんで…生々しい生のエネルギーをただただ放出するみたいな、本当にただのバカみたいな人でも松浦に勝っちゃうときがあるんだよね。あんなにバカなのにみたいな。

 

山澤 ふふふ。

 

野々下 で…そこはその、知性で計算に入れていってほしいんだよね。うん、やっぱり松浦のその、人間としての…下心というか、どろっとした欲望みたいなものが俺が固めたなんかこう…きれいなコーティングを破って出てくれた時に、面白いわけじゃん。

 

松浦 うーん…。

 

野々下 うん、面白いっていうかわくわくするわけじゃん。…何が四畳半だよみたいなさ。

 

松浦 ふふふ。

 

野々下 何が様式だよって。松浦の手にかかればそんなの何でもねえよって。

 

松浦 ふふ。

 

野々下 それがその…ずっと澤野とか本田とか沼に言ってきたことで。先生みたいな感じには扱わないでねって。

 

小森 でもそんな感じになりますよね。

 

野々下 そうだね。ここまで年齢はなれるとね。なんで、俺出続けるんだけどね。

 

小森 ふふ。

 

野々下 もうこれで演出家になっちゃったらね。すごいよね、その離れ具合が。

 

小森 一番近くて誰ですか?

 

野々下 …澤野かな、澤野本田沼。

 

小森 その人たちでも距離があるって感じですか?

 

野々下 それはある。澤野すごい気を使ってくれてるもん。

 

小森 ああ。

 

野々下 前言ってたんだけど、やっぱり演出や構成に関しては思ったことはほとんど言ってないですって言ってて。

 

小森 へえ…。

 

野々下 それはまあ言えないこともあるしって、言ってて。本田とも、内面をボロッと出したことが一回あったんだけど。

 

小森 はい。

 

野々下 それは言えませんよ……って言ってた。ふふふ。そうなんだ! って俺怒ったんだけど。

 

小森 それ野々下さんはどうなんですか?

 

野々下 俺、それは相当ショックだったよ。その本田の発言には。…本当にショックだった。しばらく立ち直れなかったもんね。

 

小森 はは。

 

野々下 12月くらいかな。公演が終わったあとかな。…それは本当に…あいつもすごくて、松浦の10倍すごくて。ふふふ。

 

小森 上にも下にもね。

 

野々下 一番ダークな時で。

 

小森 はい。

 

野々下 それ言うんだ、みたいなことをぼろぼろ言われたんだけど。気を使いながらも言うんだよ。で、それがまあ結構…あの、山の手の時にね、俺、安田さんと20くらい離れてるの。

 

小森 はい。

 

野々下 で、やっぱりそういう関係になっちゃってて。そういうこと言われたことがあったの。お前だったら言えるだろ! って。俺は…それは言えないです…って言ったの。

 

小森 はあ。

 

野々下 ははは。

 

松浦 ははは。

 

野々下 その時みたいでかなりショックだった。やっぱり俺はあれになるのかと思って。その…関係性のとり方としてはやっぱり線を引いて引っ張っていく感じでいたんだけど。

 

小森 はい。

 

野々下 でもそれにしても…脅すみたいなことは一度もしたことがなかったんだけど、それでもやっぱり言えないんだと思って。勿論暴力とかもないし。その、本田に関しては暴言とか、そういったことも言ったことないと思う。大声で怒鳴ったこともないし。

 

小森 はい。

 

野々下 …澤野は一回あったかもしれない。澤野は結構やらかす人だったから。でも…そういう…それこそゆとり世代への教育みたいな本も読んだしね。ははは。

 

小森 そうなんですか。

 

野々下 それだけ努力してこうなるのかと思って。

 

小森 それは何ですかね…演出はそうなっちゃうんですかね。

 

野々下 そうなんじゃないかな。あとはやっぱり入り口だよね。本当に本田が何も知らない状態で、俺がキャリア15年で一緒につきあったから、それがやっぱり…本当に大学一年とかなんだよね本田が俺にあったとき。澤野は…三年とかかな。なんで、相当時間がかかるのかなとは思うけど。もうちょっとね、3050とかで出会ってたらだいぶ違うと思うんだけど。まだ子供だから、大学二年生とかだと。

 

小森 そうですね。

 

野々下 その時普通におっさんだから俺、38とかだから。それで出会うとね…。俺が安田さんと出会ったのも大学卒業して1年目で、あの人はもう40とかで。なんで…すごい線があったよね…。

 

小森 (役者二人に)線、引いてますか?

 

野々下 ははは。

 

小森 お二人はどうですか?

 

野々下 山澤君、線ひかない人っている?

 

山澤 …いないですね…。

 

野々下 俺も実は結構引くのよ。

 

山澤 ああ。

 

野々下 でもすごい喋ってくから。なんで…それを自分で感じるから、消そうとするのね俺は。でもね…どうしてもそれはね。俺体育会系だったから、同期の奴らとはすごく仲良くなるんだけど、年齢違うと特に先輩だとすごい気を遣う。…山澤君は?

 

山澤 いや…もう、線を引くのが前提みたいな。

 

野々下 ははは。

 

山澤 それを取っ払おうと最近まで全然してこなくて…最近やっと線を引いてるんだなってのを自覚して、何とかしたいと思いだしたくらいで。

 

野々下 そんなに怖い演出家とやったことないじゃん。

 

山澤 そうですね。

 

野々下 年齢は離れてるの俺じゃない? あ、白鳥さん?

 

山澤 白鳥さんとかはそうですね。

 

野々下 そっかそっか。

 

山澤 でも線を引いてるというか、考え方の違いが結構感じて…年の離れてる人と接するときは。だから線を引いてるというか…ああ、この人はこういう考え方なんだなって思って、納得するっていうか…それを前提にじゃあどうしたらいいかなっていう接し方ですかね。

 

野々下 先生みたいな人に当たったことある? 俺はだから安田がすごいリスペクトだったの。最初。

 

山澤 ああ。

 

野々下 で、キャリア10年になって。自分の人生は自分でみたいな感じになっていったんだけど。

 

山澤 ああ…。

 

野々下 入り口としてそうなると、すごい線なんだよねそれ。言ってる事最高じゃないですか! って感じで入っていったのね。いいこと言うわあ…みたいな。

 

山澤 ああ…。

 

野々下 全部メモるし。何なら自分で全部喋れちゃうような感じ。

 

山澤 ああ…そこまではないですねえ。まあでも基本的に人から言われたこと鵜呑みにしちゃうので。

 

野々下 はははは。

 

山澤 疑うことをあまりしないので。まあ…なあ…だから本当にそういう人と当たったら完全に生徒になっちゃう気がしますね。

 

野々下 ああ…。

 

松浦 うーん…。

 

野々下 ははは、何それ。

 

松浦 ふふふ。

 

野々下 松浦はでもいろいろ言ってくれはするよね。

 

松浦 そうですね…。今思い返してたんですけど自分の今まで当たった演出の人とか。でもそんな離れてないんですけど。

 

野々下 でしょ。俺だよね一番離れてるの。

 

松浦 大学の演劇部で。

 

小森 まあ、現役大学生ですからね。

 

松浦 そうですね。演劇部の二つ三つ上くらいなんで。そこまで先生と生徒みたいな関係になることはないんですけど。でも一応演出と俳優って関係で受け入れようっていう努力はする癖があって、結構。いろいろ受けた上でこっちから返そうっていうのはやろうとするんですけど…拒否反応が出るときがあって。

 

野々下 うん。

 

松浦 拒否反応が出ると僕大体泣くんですけど。

 

野々下 はははは。

 

小森 本物だね。

 

野々下 なんで泣くの?

 

松浦 いやもうわかんないです。あの…泣くんですね。

 

野々下 ははは。

 

小森 拒否反応が出るって何なの? どういうことなの?

 

野々下 泣くってなんだよ。

 

松浦 たぶんそこが僕の中で反発してるときなんだと思うんですけど。

 

野々下 そうなんだ。

 

小森 従いたくないみたいなことなの?

 

松浦 従いたくないっていうか…それは違うと思う! みたいな…でも、なんかこう…根がその真面目の上にくそが付くって言われるタイプなんですけど、なんであんまりその…言いたいけど言えないと思っちゃうもどかしさでたぶん泣くんですよね。

 

野々下 …なんか山本さんみたいな人になれるといいよね。

 

松浦 ふふふ。

 

野々下 40年後くらいに。

 

松浦 あれ、すごいですよね。

 

野々下 いっぱい遊べばいいんだよ! 遠くに行けよ遠くに! みたいな。

 

山澤 ははは。

 

野々下 そごいよな山本さんほんと。

 

松浦 ふふふ。なんかそういう感じなんで…だから野々下さんと関わっててもなんか…全部が全部信じるみたいなことがあんまりなくて。受け入れられるかられないかの…判定をしながらいつも話してる感じはありますね。線を引くとしたら下なのかな僕の場合、下に線を引いちゃう。

 

野々下 そうなんだ。

 

松浦 後輩とそういう話ができない。

 

野々下 ああ。そうか、俺はもう後輩にはべらべら喋っちゃう。ははは。でも大体みんなそうだよ。俺の先輩も俺にやたら喋るし。今自分が考えてる演劇のこととか。そういったことを熱く喋っちゃうね。でもそれはもう後輩といるときの特権だと俺は思ってるけど。自分が後輩の時はその特権をちゃんと使わしてあげるし先輩に。

 

小森 でもそっちのが普通かなって思いますよね。

 

野々下 ははは。

 

小森 後輩にはみんな喋りますよ。

 

松浦 ああ。僕逆ですね。先輩のほうがその、線を越えられる確率が高い。後輩と線を越えたって感覚は一切ないですね。

 

野々下 それは何なんだろうね、面白いねそれ。でも松浦の何かいろいろなリアクションとか、いろいろなエチュードとかが今のひとくだりを聞いていろいろ合点がいった。

 

松浦 ははは。

 

野々下 なんか…そういう感じがするんだよね松浦って。面白いね、滲み出るというかわかるもんなんだね。

 

松浦 なんか、ずっとそうなんだよお前って言われてるからたぶんずっとそうなんだと思いますけど。

 

野々下 ははは。

 

松浦 直すとか直さないとかじゃないんじゃないかって。

 

小森 どんなところでそう思います?

 

野々下 攻撃性みたいなものがあんまり感じられないのと、やっぱりその…人を傷つける笑いは取らないんだよね。

 

松浦 ああ…。

 

野々下 例えばなんかこう、何々に似てるじゃんって感じで笑いを取っていくことあんじゃん。

 

松浦 はい。

 

野々下 こいつはこれができないんだよ馬鹿だなあとか。こいつのここ最悪って笑いを取っていくとか、そういうのないよね松浦。

 

松浦 ないですね。

 

野々下 結構笑いの基本って、そういういじめの構造に近いなって思ってるとこあって。

 

松浦 ああ。

 

野々下 あんまりそういうのないよね。

 

松浦 そういう…キャラ付けをしているときは言えるのかもしれないですけど。

 

野々下 ああ、役になったときはね。

 

松浦 そういう役って決めた時は…でもそういう役に決めるときが自発的にはない…。

 

小森 自由にって言われたらそこは絶対選ばない。

 

松浦 選ばないようにしてるっていうよりは…。

 

小森 103番目とかでしょ。

 

野々下 ははは。

 

小森 そういうことでしょ。

 

松浦 そうですね。選択肢にあんまり上がってこない。

 

小森 100個くらい潰した後にやっとじゃあこれって、出てくるって感じじゃないの?

 

松浦 じゃあ弄ります、みたいな。

 

野々下 俺、フリーエチュードとかってそのスイッチから入るのね。あの…ちょっとブラック孝が出てくるの。ふふふ。で、山の手って基本それで。みんなブラック何々を持っていて。で、エチュードの時は大体それでやるのね。なんで…結構なんか…難しいよね。戦いにあんまりならないよね。

 

松浦 そうですね。

 

野々下 戦いになるとわかりやすいエネルギーが造成していくんだよね。で、それを緩めるっていうのはもうエネルギーが一回出たんでわかるんだけど。難しいところだよね。エネルギーをどうやって作るっていうところなんだけど。

 

松浦 なんか確かにでも…そうですね。僕お笑いとか観てても大体好きだなって思うのはあんまり戦ってないやつ。

 

松浦 するってよけたのがすごい面白いって思っちゃうタイプなんですよ。

 

野々下 するっと系は多いかもね。

 

松浦 最近増えた気がしますね。

 

小森 野々下さん的にはこうしてほしいみたいなのはないんですか?

 

野々下 そこはねえ…正直その…わからないとこでもあるんだけど。その…一個は、リアリズムやナチュラリズムを対象化する方向には行ってほしくて。結構なんかナチュラリズムをそのまま舞台にのせちゃう傾向があるんだよね。

 

小森 はい。

 

野々下 稽古場で。それは基本NGだと思っていて。それって小学生でもできるじゃんって感じがするから。それ…一瞬の話で、一瞬の話なんだけど。でも一瞬でもやっちゃいけないと思うんだよね。ナチュラリズムは。その…コントロールしたリアリズムであれば問題ないんだけど。なんで…そこに…そこに俺は緊張感を持ってほしいんだけど。あ、やっちゃった、もう死にます。みたいな。

 

松浦 ふふふ。

 

野々下 ははは。そこを僕とかは様々な人から怒鳴り散らされるってことで体にしみこませていったから。

 

小森 はい。

 

野々下 その緊張感を。なんてことをしてしまったんだ俺はって。で、それをどうやればいいんだっていうところを結構模索してるんだけど。だから結構言うよね、それ普通じゃんとか。

 

小森 丁寧に説明する方向でってことですよね。

 

野々下 そうだね。動物的に教えるんじゃなくて。

 

小森 はい。

 

野々下 今回だから、いつの間にか声ちっちゃくなってたとか多くて。そこをどう意識化していくのかっていうことをずっと言ってる感じがするね。

 

小森 例えば野々下さんが強く言いすぎるとそれこそ生徒と先生みたいな関係になりがちになるし、言わなければまあ、それぞれから出てくるものは多くなるだろうけど声が小さくなる方向に行きがちになるし。そこらへんでなんか、苦慮してるかなってところは見てて思うところではありますね。

 

野々下 それはね…あの、『魂が凍結する夜』の時も感じたんだけどね。その…俺がちょっと強く言ったことによってクリエイティビティがなくなる、そういう稽古場になることを恐れることで俺はいろいろ開発してきた気がするね。

 

小森 はい。

 

野々下 いったん製造が止まるんだよね。あ、止まった。って。それで一番困るのは俺で。なんで…それが多分演出なんだろうね。そこまでのことは…いろいろな共通言語が分かってるだろってなるんだよね、怒ってるときは。なんでわかんねえんだって。だけど、それはわかんないんだよね。っていうのに気付いたんだよね。で、そこからだんだん俺は演出になっていったんだよね。それまでは共有できたメソッドの上でその延長線のことを役者同士で、身体でわかり合う関係で、役者同士でやってたんだけど。まあその…池田さんみたいな、普通の、シニアの方とやりたいなと思い始めたのがそこで。ああ、演出ってのはこういうのが楽しいのかって。だからその、出来ないっていう方向じゃなくて、もともと持ってるものを…特に僕と全く違う体を持ってる人、今回で言うと池田さんが顕著なんだけど。そういう人にはその、演出家目線で植え付けていくだったり、探り起こすみたいな作業を楽しいと思えるようになって。…まああと20年で私もシニアですから。

 

小森 だから、そこら辺のことを構成演劇でどうやるのかなってことを思うんですよね。

 

野々下 そうだね。そこは今もうすごい過渡期だよね。実はだってさ、山の手ってもうスーパー集団なんだよね。みんな体キレるし、みんな声デカいし、みんな滑舌いいし、みんな知的レベルが高いのね。そうじゃない人が多いっていうその…人たちとやるベストの形を今模索してる感じはするね。

 

小森 はい。

 

野々下 だって意味ないもんね。同じ事やりたいんだったら。山の手でやったほうがいいから。だから山本さんとかを生かせるようにっていうのが腕の見せ所かなって思ってるんだけど。持て余し気味のエネルギーを抱えながら普通に日常生活を送っている普通の人を舞台上にのせて新たに魅力を開花させるっていうか。…持て余してるっていうのが結構キーかなって思うんだけど。

 

小森 そうなると本当に演出になりますね野々下さんは。

 

野々下 そうだね。そう…でもやっぱり、エネルギー量ってとこにこだわってるからかもしれない。共演するのは。そこに関しては入ったほうがいいって思うから。

 

小森 じゃあもし自分と同じとかそれ以上の人っていうのが23人いるっていう状況になったら今回俺出ないからってことはありますか?

 

野々下 そうなったらもう出てて大丈夫だね。山の手ってそうなのよ。山の手はみんな同じレベルで、例えば松浦に見といてもらってシーン作って、そのあと俺が見てシーン作って、小森君に見てもらってシーン作って、山澤君に見てもらってシーン作って。ビデオで全部映しといてコンペみたいな事やって。じゃあ小森君に見てもらったやつが一番面白いじゃんっていって、それをのせるみたいな感じなのね。

 

小森 はい。

 

野々下 なんで、もしレベルが全員一緒なら全員舞台に立つね。

 

小森 そう、だから例えばシアターラボで継続で3人くらいは継続で出られる役者がいたとして、そこに毎回45人シニアなり学生なりが入ってくる形式になったとしたら野々下さんの立場ってどうなるのかなって思って。

 

野々下 ああ……それはだいぶ流動的にできるかもね。だから俺それをねらってたんだけどね! 本田演出家計画!

 

小森 はい。

 

野々下 俺出ない公演初めてだったの。で、俺はあれを成功だと思ってて、結構面白かったし。なんで、あの形を澤野、沼、本田、3人とか4人とかの演出家で回していくみたいな形でやれたら一番いいんだけど。

 

小森 はい。

 

野々下 澤野の回は下ネタばっかりで、本田の回はセリフ少なめで、沼の回はほぼ台本で。で、俺の回は思い切り構成演技みたいな。それでも何となくルーツは似ているみたいな。

 

小森 そうなると、まあ、今回であれば池田さんとか山本さんとかに対して、技術的に全然上がってもらう必要がなかったり、そういうことができたりするって感じですかね。

 

野々下 その…いいところを見つける目線っていうのがみんな違うのね。例えば山澤君と絡んだ時…池田さんが一番山澤君と絡みやすそうだったけど。で、山本さんにヒットが出たのが何故か松浦だったからもう松浦好きになってるんだけど山本さんは。だから、俺に引っ張り出せないものっていうのが山澤君だったら引っ張り出せたりするし、松浦だったら引っ張り出せたりするし。で、俺が得意な俳優が山澤君には苦手、みたいなのが何故かあって。それは共演者として。なんでその…だいぶ引き出せてもらってると思う。その辺はワークショップのファシリテーターにも通じるものがあって。

 

小森 はい。

 

野々下 シーンをコーディネートできる俳優、シーンリーダーになれる俳優はファシリテーターとしてすぐに独り立ちできるから。で、そこは演劇のおいしいとこだと思うからある人数をパッと集めて面白いシーンがパッとできちゃうみたいなのってのは。そこまではいってほしい。クリエイターじゃなくておもいっきりプレイヤーの俳優もいるんだけど。そこまではいってほしい。芝居全部ってとこまではその、得意不得意あるから、でもシーンリーダーまではいってほしくて。演出はしなくて問題ないから。

 

小森 じゃあ基本的に演出はいなくてもって感じなんですかね。

 

野々下 ああ…そうだね。

 

小森 できるなら。

 

野々下 最終的には。でもまあ、音響照明とかいろいろあるけどね。そこはけど、演出家兼俳優が56人いるみたいなイメージだよね。

 

小森 ちょっと聞きたいのは、それ、そこで役者同士の相性だったりだれかがだれかのいろんなところを引き出せたとして、役者同士、どんどん進んでいろんなシーンができたとして、そもそもそれが傍から見て面白くはない、みたいなことって全然あるじゃないですか。

 

野々下 ああ…。

 

小森 だからその…ここからいくら本人のやりやすさとか、役者同士の心地よさみたいな部分から無限に引き出せる相性があったとしてもそこの引き出し全般が面白くないとかは全然あって、それはもう役者としてのレベルとか技術とかの話だと思うんですけど、そこに対してはどうするのかってことは思っていて。

 

野々下 ああ…そこはね、一発目はないの、一発目は絶対面白いの。で、二本目なの、そこで大体の人が面白くなくなるの。同じ事をやりだすの。その時に…微調整をするかネタをあげるか、だから作家としての脳みそをフル回転させる。そこは共演者としてじゃなく。プロデュースだね、つんく♂的な。

 

小森 そこら辺を面白く引き出すってのがメソッドとか演出の役割になってくると思うんですよね。

 

野々下 うんうん。

 

小森 で、今、野々下さんはそこらへんで苦労してるのかなって思うんですよね。

 

野々下 うん。そうだね。だから言葉で引き出せるんなら引き出したいんだけど。引き出せないってのが本公演だと多い。トライアルでやって、それを使って新たな何かを生み出そうとしたときに…変身願望っていうのかな、通常の自分はちょっと置いておいて、もしくはそれを、アレンジして別の自分になるみたいなところにすごい巨大な喜びを持ってる人が、俺、俳優のイメージなんだけど。だから逆にすごいコンプレックスの塊のイメージ、俳優って。

 

小森 はい。

 

野々下 コンプレックスはあるんだけど自己顕示行欲が強いみたいな。ちょっと歪んだ人。

 

小森 今野々下さんがシアラボで相手にしてる役者っていうのがそこの攻撃性みたいなのが0、みたいな人たちのような気がしてて。

 

野々下 そうだね。

 

小森 だからどうしていくのかなって。

 

野々下 それはやっぱりさっき言ったみたいな、作戦を立てて植えつけたり引き出したりってことを続けると思うけど。

 

小森 だからなんとなく、そこら辺を刺激するとかでは絶対、ああ0なんだなって、そういう感じの相手じゃないですか。

 

野々下 ああ。

 

小森 で、もしそういう人たちと今後もやっていくのであれば、それに対してはどういう考えなのかなって、まあ、今回の作品に関しても。

 

野々下 基本的に今回の作品は…シアラボの新たな一面を作りたいと思っていて。で、一個は…儀式にしたいと思って。これ自体が面白い、っていうのをいったん、もう決めてて、何で演劇の形として面白いっていうのを決めてて、で、その中で、様々な演技トーンっていうのを3人とか4人とかが行って、役割っていうのを完全に分担して、儀式を作っていくっていうのを面白くしたいっていうのがある。で、それ以降ってなると…自分でシーンを作るってことだね。自分でシーンを作るってことで自分の欲望や自分の面白く思う美学みたいなものに気づいていくっていう作業。例えば作家だったら書かないとわからないじゃん、自分が面白く思っているものなんて。ていうのがショートストーリーズごとに、ショートシーンごとにやってもらいたいってのがあって…それこそまさに稽古場にいないとできないんだけど。山澤君と一緒に何々をするっていうのは山澤君といないとできないから。

 

小森 なんか外から見てると野々下さんがやりたいこととか役者に望んでることみたいなのが結構わかって、で、やってもらえてないっていうのもすごい分かって。

 

野々下 はははは。

 

小森 だから見てて、役者でストップかけるとこと野々下さんが思うそこストップかけたらつまらないでしょってとこって被ってるから全然先進まないなってのとかが伝わってきて。だから今言ったような欲望や攻撃性みたいなのが普通はあるよねってむかって行ってるのに、そこが0だったとか。

 

野々下 へえ。

 

小森 それに野々下さんが言ってることって難しいんですよね。

 

野々下 それは技術的に…。

 

小森 いや、言ってること自体が。

 

野々下 言ってること自体が難しいか。

 

小森 で、野々下さんが言ってることを面白がる背景とか前提がないからそもそも理解できなかったりとかあると思うし。でもそれは、長年一緒にやるっていうのじゃない、毎回毎回メンバー変えてってなったら確実にそうなっていくから、そこらへんをどう乗り越えるのかっていう部分。

 

野々下 そうだね…。

 

小森 そこをちゃんと乗り越えないと面白くない部分ってたくさんあると思うし、それを乗り越えた先の面白さっていっぱいあると思うから、出来ればそれをやってもらいたいし観たいと思うから、一番近々では今回の作品ってことになりますけど。

 

野々下 そうだね…。でもやっぱり、最後に俺がちゃんとパッケージングするってことだと思うんだけどね。どこまで俳優に責任とってもらってどこから俺が責任とるのかみたいなところだと思うんだけど。そこで自暴自棄にならずにちゃんと責任とる所では取るってとこだと思うんだけどね。面白さはこれで、ここに行くにはこういう道筋があって、ここまでがあと3日ですと。で、3日でいけなければそこは大手術しますみたいな。

 

小森 なんかそこの…期間とかで言うと野々下さんがあと3日でって言ってるのが…それたぶん3ヶ月か3年とかかかるんじゃないかなってことなんですよね。

 

野々下 はははは。あ、本当に?

 

小森 はい。そう思うんですよね。

 

野々下 ああ…そっか。

 

小森 だから…無茶だなって。

 

野々下 はははは。

 

小森 その3日とかっていうのは今回の公演とか、その時々の限られた時間ってことだと思うんですけど、じゃあそこに野々下さんが詰め込んでほしいものっていうのは、それを得るための時間をまあ少なくとも3ヶ月とかそれくらいとったほうがいいかなって思うものな気がして。

 

野々下 ああ…。それはそうかもねえ…。その辺はねえ…ほかの古いメンバーにもあんまりわかってない部分だと思うんだけど。なんとなく共有できちゃってる部分なんだよね。演出家としてはそこにずっといないほうがいいし、ただ、劇団としてはその状態が長く続いたほうがよくて。だから、今はその劇団の状態が終わって、演出家としては結構厳しいところにいて。今が言葉の鍛え時なのかなって気がするし。でも小森君には全くわかってないようですよって言われて、そうなのかなって思うんだけど。

 

小森 いや、わかんないですけどね、せっかく役者二人もいますから。

 

野々下 まあなあ…わかればいいってもんでもないからなあ…そこなんだよねえ。本当にわかってもらってないんだけどなんかできちゃうってのがその、永澤真美だったのね。全くわかってもらえないの、ほんと、何言っても。でも出来てんじゃんって。やったら出来るの。そこが不思議で。

 

小森 うん、そうですね、なんか全然言葉はわかんないけど言いたいことは伝わってくるからやるよみたいな。

 

野々下 皮膚感覚でわかるんだろうね。こういうこと? っていう確認が大きく間違ってるのね、いや、それでは絶対ないって。ただ、やってることはあってて。おかしいよね。だから有言実行じゃなくて、ただ実行してくれたら俳優は全然よくて。ただ、さっき言った中身の楽しみが結構優先してるのね俺。言ってもらえるとみんなが分かるじゃん。やっぱりそれが楽しいのね。みんなで今一つの知性を獲得したなって。そういう時間が。だから…今回『継承者』とかでもそうなんだけど、トライアルの時はある程度決め打ちするんだけど、やりながら考えつつその…構成の新しい形みたいなものを探ってるのね、探ってるっていうとあれだな…ずっと毎回毎回ベストを目指してるのね。で、今回みたいな形になれたのは俺はうれしいんだよね。で、そこの興奮が伝わらないのが悲しい。

 

小森 ははは。

 

野々下 この新しい形式面白くない? って。でもそこは構成演劇大好きっこじゃないとね。

 

小森 そうですね。それが新しいかどうかわからないですからね。

 

野々下 そうだね、新しいかどうかわからないよね。1個目だからね。

 

小森 はい、すべて新しい。

 

野々下 うん。

 

小森 何言われても初めてのことだしってなっちゃいますよね。

 

野々下 うん、そうそうそう。

 

小森 それについて考えるので精いっぱいみたいな、毎回毎回。

 

野々下 なんでその時にその…どうやって考える状況、考えようって欲望を引き出すかは少しワークショップの経験が反映出来てるかなって思うんだけど。参加を求めつつじゃないとワークショップって進まなくて。でも後半になってくると完全に演出になってくるけど。トライアルは全部ワークショップで出来るんだけど、形式がもうできてるから。

 

小森 はい。

 

野々下 新しい形式を探すっていうのが本公演だから。後半の2ヶ月は全然ワークショップじゃないね。それに後半の2ヶ月じゃないかな言葉が急に難しくなってくるのは。俺にとって初めての言葉をしゃべり始めるから。

 

小森 個人的にはもうちょっと喋ってもいい気がしますけど。

 

野々下 ほんと?

 

小森 やっぱりメインで喋るのは野々下さんしかいないから、で…ほかの人がまああんまり喋らないんだとしたら…。

 

野々下 ははは。

 

小森 それはやっぱり…みんなその場で考えてるってのもあるだろうし、躊躇してるところもあるだろうから。でも…野々下さんが例えば2時間ぐらい話し続けてるのに一言も発しないみたいなのはさすがにないだろうってみんな思うだろうから…。

 

野々下 はははは。

 

小森 そこはもう、バランスで。野々下さんが100に対してみんなが1しか喋らないんだとしたらもうできるだけ早く100喋っちゃうみたいな。

 

野々下 ああ。

 

小森 で、どんどん回していく。

 

野々下 そうだね。でも、どっかでほんと効率は考えていかないといけないと思ってはいるから。少しその、未来とか美咲とかには教育的側面もあるんだけど。かといって…というところもある。

 

小森 どうですか? お二人は。

 

山澤 そうですね、もっと喋ってもらったほうがいい気はするんですよね。ただ単純にあの…コンテクストっていうか、言葉がそんなに共有できてないので。まあ…質より量っていうか。

 

野々下 ははは。

 

山澤 何だろう…。言ってもらったほうが理解するまでにかかる時間は短くなるかもしれませんね。

 

野々下 そっか…。

 

山澤 まあ、若干その先生と生徒ってのは強まるんですけどね。

 

野々下 だからもう共演者に少しずつ移ろうと思っていて。わかんなくても、一緒になってやってるとできるじゃない。ていうのは…演劇としては大切にしたいなって思ってるんだけど。本当に…知的な人たちのためだけのものじゃないから、演劇って。

 

小森 そこら辺はもっと野々下さんからのアプローチで引き出してほしいなって思ってるんですけど。

 

野々下 そうだね。前回の一発目はそんなに難しくなかったんだよね、トライアルは。トライアルは自己紹介でほぼ芝居ができるから。継承者ってコンセプトに絡め始めると途端に難しくなるんだよね。

 

小森 なんか、まだまだみんな演技が綺麗だなって思っちゃうんですよね。

 

野々下 そうだね! そう、そうだね、本当にそうだわ。台本芝居のほうが全然汚いよねたぶん。

 

小森 はい。

 

野々下 まだまだエネルギーの噴出の仕方が定まってないんだと思うんだけど。…山本さんぐらいじゃない? やりたい放題やってるの。

 

小森 ふふふ。

 

野々下 なんで、そうやってこう形式を決めて、こうやってエネルギー出していいよっていう、こう、様式的な部分を決めて…あとは思いっきりやるだけっていう段階にもうなってると思ってるんだけど俺は。

 

小森 その…形式とかメソッドとかの使い方なんじゃないですか?

 

野々下 うんうん。

 

小森 エネルギーを出すほうにも使えるし、出たエネルギーを収めるほうにも使えるし、ってとこだと思うんですよね。

 

野々下 そっかそっか。やあ…以外に、暴れたいんだ叫びたいんだみたいな感じが結構少ないからみんな。そこを…どういうエネルギーの噴出があるのかってところを、まあ、ある程度植え付けてる最中なんだけどね。二拍子ってのがあるよ、みたいな感じで。そこはまあ、誰もが持ってる…気づいてる欲望でもないと思うんだよね。…たまたま気づいちゃったというか…。

 

小森 まあ、そこら辺をどうやっていくのかっていうのは、見て、ます。

 

野々下 うん、見てて。

 

小森・野々下 ははははは。

 

野々下 じゃあ、こんな感じで。

 

小森 じゃあ、こんなところで。

 

野々下 はい。

 

小森 ありがとうございました。

 

野々下・山澤・松浦 ありがとうございました。

 

 

はい。というわけで以上、野々下、小森、山澤、松浦による座談会でした。いかがだったでしょうか。今後もこのように作品や出演者について話したりする場、積極的に設けていこうかなと思っていますので、よろしくお願いします。

 

それでは、次回。

 

『継承者』期待してください。